強迫性障害に対する認知行動療法って何か
強迫症に対する認知行動療法は,強迫症を維持・悪化させている認知的解釈にアプローチすることで強迫症を改善させる精神療法です。
認知行動療法は,2人の専門家が協働することによって成立します。一人は治療者です。治療者は,強迫症についての専門知識をもち,強迫症に対して,どのような治療が有効なのかを知っています。もう一人は患者さんです。患者さんは,自らがどのような強迫症状をもち,それによって,どのように生活が苦しめられているのかを誰よりも知っています。認知行動療法は,治療者と患者という二人の専門家が,互いの専門をつきあわせながら実践されます。治療者は,患者さんの症状のことを,患者本人から教えてもらい理解していく必要があります。患者さんは,治療者にリードされながら,治療の知識と技術を身につけていきます。この協働関係を前提とし,認知行動療法は行われます。
強迫性障害の認知行動療法って何?(侵入思考)
認知行動療法では,強迫観念を侵入思考として説明します。侵入思考は,意に反して頭に侵入してくる雑念のような思考です。強迫症患者は,侵入思考に強い恐ろしさを感じ,その侵入思考を除去するために様々な強迫行為を行ってしまいます。
重要なこととして覚えてほしいのは,侵入思考は健常者にもみられる一般的な思考であるということです。例えば「暖房のスイッチを消し忘れ火事になるのではないか」,「トイレの便座に座ると感染してしまうのでないか」といった侵入思考は40~80 %の健常者が経験していることが分かっています。認知行動療法では,患者が脅威に感じている侵入思考は,実は異常なものではなく,健常者にもみられるノーマルな思考であることを話し合っていきます。これにより,侵入思考に対する恐ろしさを軽減させていきます。
例えば,他人を傷つけてしまうイメージの侵入思考が頻繁に浮かび,「そのような考えが浮かぶ私は,恐ろしい人間に違いない」と解釈している加害恐怖の強迫症患者さんには「自分が誰かを傷つけてしまうという雑念は,実は半数以上の健常者も体験しているのですよ」と伝えることで,侵入思考に対する脅威の少ない解釈を患者さんと話し合っていきます。
強迫性障害の認知行動療法って何?(過剰な責任感)
強迫行為は,侵入思考よりも,過剰な責任感によって引き起こされます。侵入思考が生じた際に,「危険が起こるのを,自分の責任で,何としてでも防がなくてはならない」という過剰な責任感によって,強迫行為への衝動が高まってしまいます。例えば,「玄関の鍵を締めたか何度も確認しておかないと,私の確認不足のせいで,空き巣に入られてしまう」という過剰な責任感に基づく解釈は,確認強迫を引き起こします。「徹底的に手洗いをしておかないと,私の手洗いが不十分なせいで,危険な汚れが家中に広がってしまう」という解釈は,洗浄強迫を引き起こします。
認知行動療法では、強迫行為の原因となっている過剰な責任感に基づく解釈(e.g.○○等の強迫行為をしておかないと,最悪,私がそれをちゃんとしなかったせいで,○○といったトラブルが起こってしまう)を明らかにしていき、それを変容させていきます。
強迫性障害の認知行動療法って何?(強迫行為の悪循環)
強迫症患者さんは,侵入思考や過剰な責任感によって生じた不安を減らすための強迫行為を行います。強迫行為をすれば一時的に安心できるので,強迫行為は不安を軽減するための対処法として有効のように思われるでしょう。しかし重要なのは,長期的に見た場合どのような結末になるのかを考えてみることです。実は、強迫行為により一時的に安心できるが,長期的に見た場合,強迫行為が止められなくなり強迫症が持続されてしまいます。このメカニズムを説明するため,次のブログでは「ある例えば話」を使って、説明していきたいと思います。
強迫性障害の認知行動療法って何?(強迫といじめ)
強迫が長引いてしまうメカニズムは,いじめが長引いてしまうメカニズムと似ています。例えば,いじめっ子は“金を出せ,さまないと痛い目に遭わすぞ!”といい,いじめられっ子を脅します。すると,いじめられっ子は恐ろしくなり,お金を出してしまいます。実際にお金を出せば,いじめっ子はいなくなり,いじめられっ子は「あー良かった。お金を出したから助かったんだ」と思うでしょう。これでいじめは終わるでしょうか? いいえ,違います。しばくしたら,またいじめっ子がやって来て「金をだせ」と脅してきます。いじめられっ子は,「またお金を出せば助かるんだ」と思い,お金を出してしまいます。お金を出せば,その時は助かりますが,またしばらくしたら,いじめっ子がやってきて,同じことが繰り返されます。さて,いじめっ子に従ってお金を出し続けることで,いじめは解決するのでしょうか? もちろんしません。いじめっ子に従いお金を出すという行為は一時的な解決策になるかもしれませんが,いつの間にか,いじめを長引かせてしまう原因になっているという話です。
強迫もこれと似ています。強迫観念が,強迫症の人に“強迫行為をしろ,さもないとお前のせいで,恐ろしいことが起こるぞ!”と脅してきます。そのような考えが浮かぶと,強迫症の人は恐ろしくなり強迫行為をします。強迫行為をすれば強迫観念はいなくなってくれるので,その人は安心するでしょう。しかし,しばくしたら,また強迫観念がやって来て,同じように「強迫行為をしろ」と脅してきます。強迫症の人は,「この前のように強迫行為をすれば安心できるんだ」と思い,強迫観念に従って強迫行為をしてしまいます。強迫行為をすれば安心できるので,それは一時的な解決策になるでしょう。しかしこれで強迫は解決するでしょうか?もちろんしません。また強迫観念がやってきて,同じことが繰り返されてしまいます。
いじめと強迫観念の共通している点は,どちらも脅しに従って行動することは一時しのぎの解決策になりえますが,それを続けると,その解決策はいつの間にか問題を長引かせてしまう原因に変わってしまうということです。そして,両方とも根本解決するためには,脅されても従わないことが大切です。
強迫性障害の認知行動療法って何?(ケースフォーミュレーション)
ケースフォーミュレーションでは,患者の問題がどのように維持されているのかを説明する図を作成することです。ケースフォーミュレーションは,これからセラピーがどのように進んでいくのかを説明する地図となります。ケースフォーミュレーションを作成する際は,「一番最近,強迫のことでお困りになったのはいつですか?」という質問をし,特定の状況を思い浮かべてもらいながら作成していきます。全般的な状況よりも,特定の場面について具体的に話し合った方がより鮮明な情報が得られます。
ケースフォーミュレーション作成の主な流れとしては,a) 特定の状況でどのような侵入思考が浮かび,b)侵入思考が浮かんだ際に,どのような脅威的解釈(過剰な責任感)をし,c)どのような強迫行為をしたのかを順に話し合っていきます。さらにd)強迫行為をすれば一時的に安心するが,長期的に見た場合,強迫症が長引く原因になることを話し合います。